商標調査の基本#03「商標権取得のメリットについて」
「商標調査の基本」シリーズ、第三弾!主に、商標権を取得することによるメリットについて今回も弁理士中村先生との対話形式でお届けいたします。法務の領域を超えて発揮する効果についても考えています。ぜひご覧ください。
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#著作権への認識の変化
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IP-RoBoスタッフ(以下、スタッフ):そういえば、中村先生は以前自己紹介の際に、学生時代のバンド活動がきっかけとなり著作権について勉強されていたんですよね?ようやく著作権と商標の違いがわかった今だからこその質問かもしれませんが…、改めて、著作権ではなく商標権の専門家となった理由はあるのでしょうか?
中村先生(以下、中村):著作権に関しての依頼もありますが、圧倒的に著作権より産業財産権の方が依頼の範囲が広いんです。以前、自己紹介でもお伝えしていましたが、私の就職活動は超氷河期の真っ只中でした。当時、音楽関係の仕事に就こうと思い、著作権絡みの仕事を探しても、レコード会社やテレビ局など限られた企業しかありませんでした。今でこそ、映画や漫画など著作権に重きを置く傾向もありますが、当時はキャラクタービジネスも一般的ではなかったんですよね。レコード会社やラジオ局も受けてみたのですが、そもそも候補もあまりありませんでした。一方で、同じ知的財産権の中では、特許などの産業財産権の仕事は、製造業を中心に多くありましたね。
スタッフ:なるほど、そのような背景があったのですね。著作権の捉え方も時代によって変化してるということでしょうか。ちなみにキャラクタービジネスというと、昨年大ヒットした某アニメなどですか?あの作品は、“柄”だけ認識できるくらい認知度が高いと思うのですが、あの“柄”にも商標権はあるのでしょうか。
中村:そうですね、商標権がつくものもあります。
スタッフ:原作は著作権で、そこから派生した“柄”や“名前”に商標権がつくということですか?
中村:はい、まさにキャラクタービジネスのスタイルですね。基本は著作権ですが、一部、商標権の発生する部分があります。漫画そのものは著作権ですよね。でも、そこからグッズが発売されるとその商品名などは商標権の範囲になります。
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#商標登録のメリット
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スタッフ:商標登録することの最大のメリットは、自分たちの商標を管理できることでしょうか?
中村:そうですね。そこがちょっと一般的に伝わりにくく、私がいつも悩んでいるところです。他社の権利を踏まなければ、別に商標取らなくてもビジネスはできます。そうすると、ほとんどの経営者の方達は「今までも問題なかったから、このまま商標を取る必要はない」とおっしゃるんです。むしろ「なんでとる必要があるの?」と。「自分が先に使用していたのに、他社が権利を取ってしまった」等のリスク回避や、「他社に真似された場合は、やめさせることができる」等のメリットはもちろん提示しますが、そこがいつも弁理士として悩ましいと思っているところです。
スタッフ:経営者の方達が「必要ない」と判断される理由の多くは、コスト面でしょうか?
中村:おそらく、そうだと思います。「コストをかけて、もし商標権を取得できなければ今後使用できなくなるの?」といった心配が発生しますからね。今までは、商標取ることってある意味「保険」のような伝え方しかできなかったんですが、これだとピンとこない方も多いので、最近では捉え方を変えてみました。商標権取得の目的は、「保険」ではなく「利益の拡大」につながるんです。
#01のおさらいにもなりますが、そもそも商標の役割は、「他の商品やサービスと区別する目印」でしたよね。さらに、取得することで他社に使用させないための法的根拠を持つことができます。
ここまでを整理してみると、必然的に他社との差別化がとても簡単になることが分かります。商標権取得により、「明確に他社と区別された状態でお客様に届けやすくなる」→「自社商品やサービスを知る人が増える」→「接触する効率が上がり、売り上げに繋がる」→「広告コストも下がる」ということが見込めると、私は考えています。
スタッフ:なるほど。他社の権利を踏まないようにリスク回避ができるというだけではなく、自分たちの領域を明確に作ることで他社との区別化ができる、法務の役割を超えた利益にもつながる可能性があるんですね。漠然としていた商標を取るメリットが、なんだか明確になった気がします。
中村:その通りです。まだまだ大企業と中小企業では商標の重要性への認識に差があるので、そこを経営者の方々へお伝えしていきたいところです。
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本日は以上です。会社の規模で商標に対する捉え方が違うことや商標権を取得することの具体的なメリットなど、シリーズが進むにつれ、どんどん詳しい商標の事情を知ることができて勉強になります。次は「海外の商標事情」「商標登録までの流れ」をお届けする予定です。お楽しみに!
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[取材協力]
中村祥二
Markstone知的財産事務所 弁理士
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