商標に学ぶ 「 商標とビジネス」
みなさま、ご無沙汰しております。昨年5回に分けて配信いたしました「商標調査の基本」の続編をお届けします。前シリーズでは、特許と商標の違いから商標権を取得するメリットまで、まさに商標の基本について、弁理士であり、弊社CTMOの中村に教えてもらいました。
これらの内容を踏まえ、今回は、どんな話が繰り広げられるのか?
商標初心者の方はもちろん、知財部や商標に関わる事業部の方々はぜひご一読ください。また、自分のブランドを立ち上げたい!と思っている方は必見です。
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#商標とビジネスの関係性について
中村(弁理士/CTMO)(以下、中村):基本を学ぶと、次に気になってくるのは、やはり“ビジネス”との関係でしょうか。法律的に商標権を取得できるか否かというのはもちろん大切ですが、ビジネスの観点においても重要なポイントがあります。
—ポイントは「指定商品の選定」
中村:それは、調査を行う際に、指定商品の選定において、自身の商品やサービスがどの範囲に入るのかをちゃんと理解して行うということ。場合によっては、その“周辺範囲”も調査することをおすすめします。
前回の「商標の基本」でも、商標を取る時には、それぞれの商品ごとに区分ごとに分かれていて、その区分の指定が必要だとお伝えしました。
例えば、「うちは洋服屋さんをやる」と決めた時に、洋服についてだけ商標権を取ればいいかというと、そうではありません。もちろん、最低限の「洋服だけ」でも合ってはいるのですが、今後、靴や鞄など関連製品の販売をする可能性はありませんか?また、もし鞄や靴の販売を行わないとしても、同じブランド名で他社から鞄を販売されてしまうのはできれば避けたいトラブルだと思います。
そのため、鞄や靴などの“周辺範囲”についても、他社の権利を見ておくというのは、実は調査段階で重要なポイントなのです。
IP-RoBoスタッフ(以下、スタッフ):指定する区分は、実際にその該当する区分の製品を作っていなくても申請しても良いのでしょうか?
中村:それは大丈夫です。
スタッフ:なるほど。別に現在の事実とイコールになってなきゃいけないとかではないんですね。それって、「取っておけば取っておくほど良い」と、欲張りな思考にはならないんでしょうか?
中村:なる可能性もあります…(笑)
スタッフ:やはり(笑)とはいえ、ピンポイントに自分が展開しているサービスだけを取得するだけだと、先々その名前で他のことができない可能性が出てきますもんね。
—不使用取消審判とは?
中村:その通り。だからといって、闇雲に広く取ればいいのかというとそうではありません。なぜなら、「商標権は使わないと価値が発生しない」という大前提があるから。もし、登録した商標を3年間使用しなかった場合は、不使用取消審判という制度で取り消されてしまう可能性があるんです。
欲張りに、なんでもかんでも取得すると、最初は自分の権利が凄く広くなるかもしれませんが、使用しなければ、最終的には取消されてしまうリスクもあります。
スタッフ:ちなみに、3年経った時に使っていない区分が一部あれば、取得していた全ての権利が取り消されてしまうのですか?
中村先生:いいえ。不使用取消審判は、第三者が取り消して欲しいと手続きをすることでスタートする制度なんです。
ある企業が洋服、靴、鞄の3つを指定商品として申請し、商標権を取得したとします。その上で、実際には洋服の販売のみ行っており、第三者が「鞄についての権利が欲しいから取り消して欲しい」と言ってきた場合は、鞄について使用しているという証拠を出さないと指定商品「鞄」についての商標登録が取り消されてしまう可能性は大いにあります。
もちろん、闇雲に取ることはおすすめしませんが、「自分が洋服のブランドやっていて、同じ名前で別の会社から鞄など出されたら…」ということを想像してみてください。結構なダメージですよね?なので、やはり事前に牽制的に取っておくことで、将来の可能性を確実に確保しておくことは大切だと思います。
—消費者の立場でみる
中村:そして、これまでの話を逆の立場で考えると、「他社のあの鞄のブランド名で洋服を作ろう」という行為は消費者目線で考えると良くないかもしれません。洋服の区分で商標権を取っていないなら商標権の侵害にはなりませんが、消費者の混乱を招くことになりかねないので、そういうリスクにわざわざ踏み込んでいく必要はないと思います。やっていいこと・悪いことの判断は法的な基準だけでなく、消費者の目線で見てみると明解かもしれません。
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商標権が法律的な面だけでなく、ビジネスとも大きな繋がりがあることを感じていただけましたでしょうか? 自社のビジネスプランを見据え、ブランドの価値を守り、高めるために適切な商標権の取得と活用をしていきましょう!